大河ドラマ「風林火山」感想

2007年のNHK大河ドラマ

大河ドラマが他のドラマと違う点は、一年間で約50話という長時間あるため、多くの登場人物のエピソードをじっくり描けることである。そのため、主人公に感情移入しやすい(脚本がしっかりしてれば)。

また、通常のドラマであれば悪役として描かなければ主人公との対立軸が表現しにくいライバルたちのエピソードも十分に描けるため、勧善懲悪にならず、物語に深みが増すのである。

 

風林火山」は、これに成功した貴重なドラマだと思う。

最初は「策士、策に溺れる」という言葉が似合う、未熟で姑息だった山本勘助が、恋人の死や戦国の無常さを経験し、思慮深い軍師に成長していく。

そして、主の武田晴信は、若いころは清廉潔白で世間知らずだったが、国を治めて汚れたことも経験し、君主として成長していく。

 

そのライバルである長尾政景、のちの上杉謙信は、武田家とは違い、領土拡大のための戦争をしない「義」に生きる武将である。

現代の価値観ではこちらの方が「正義」であるが、視聴者には勘助と晴信の方に感情移入してしまっているため、どちらの主張も理解できるのである。

 

そのため、「戦争の悲劇」、「正しい生き方」というテーマ以上に、「人の向上心(欲)の肯定」というものを感じるドラマだった。

具体的には、晴信の領土拡張や勘助の出世欲、これらの人間の醜いところをひっくるめて人間なのであり、それが社会や文明を推し進めてきたのだということを認めよう、ということである。