短編小説「東京奇譚集」村上春樹 感想

東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

村上春樹の短編小説集。
村上春樹氏が知人から聞いた「実際にあった奇妙な話」として書かれた話が5話。

  1. ピアノ調律師がカフェで偶然同じ本を読んでいた主婦と出会う話。
  2. サーフィン中にサメに殺された息子を思い出して毎年ハワイに行く中年女性の話。
  3. 行方不明になった男性の行方を捜すため、なぜかマンションの階段を調べる探偵(?)の話。
  4. 小説家の男性が出会った謎の職業の女性と、彼の書く小説(腎臓の形をした不思議な石)の話。
  5. 日常の会話をしていて、なぜか自分の名前だけを忘れてしまう女性が、カウンセリングに通う話。

 5本の話に関連はないけど多分、「大切なものを奪われた人の救済・克服」というのが共通テーマ。

 他の村上春樹小説のように非現実的なファンタジー要素はさすがにあまりなくて、だいたいは本当にあってもおかしくないような偶然の出来事の話(猿がしゃべる5話目はフィクションだろうけど)。

 とはいえいくつかの話は、何か示唆的な意味・教訓がありそうでいて、何が言いたいのか良く分からない話。提示された謎・伏線も、ほとんど解決されないままだし。その辺りが、読んでいてモヤモヤするのだけど、村上春樹作品に論理性を求めるのはムダ、というか野暮。

 この小説も他の長編小説と同様、意味不明だけど不思議な世界観を楽しんだり、ところどころに出てくる哲学的な名言を楽しむものなのだろう。

この小説に出てきた名言

第1話「偶然の旅人」より

偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうか。
つまりそういう類のものごとは僕らのまわりで、しょっちゅう日常的に起こっている。
でもその大半は僕らの目にとまることなく、そのまま見過ごされてしまう。
しかし僕らの方に強く求める気持ちがあれば、それはたぶん僕らの視界の中に、ひとつのメッセージとして浮かび上がってくる。
そして僕らはそれを目にして、『ああ、こんなことも起こるんだ。不思議だなあ』と驚く。
本当はぜんぜん不思議なことではないのに。

これは自分的には納得。起こった出来事をどう思うかは、受け取る側の気持ち次第なのだと思う。

 

第2話「ハナレイ・ベイ」より

女の子とうまくやる方法は三つしかない。
ひとつ、相手の話を黙って聞いてやること。
ふたつ、着ている洋服をほめること。
三つ、できるだけおいしいものを食べさせること。
それだけやって駄目なら、とりあえずあきらめた方がいい。 

村上春樹の恋愛観ぽい。彼の小説では男女は出逢ってすぐに恋愛関係になるし。

 

第4話「日々移動する腎臓の形をした石」

男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。
それより多くもないし、少なくもない。

そのくらいの覚悟を持って、常に真剣に相手に向き合えということだと思う。