「アンネの日記」感想

アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記 増補新訂版」アンネ・フランク著 深町眞理子訳 (文春文庫)

 

第2次世界大戦時のオランダで、ユダヤ人の少女が隠れ家の中で書いた約2年間の日記。

当時のユダヤ人の悲劇を描いた世界的ベストセラーとして有名なので、読む前は、「戦争の悲惨さ」がテーマの悲劇の少女の話かと思っていた。

でも実際は、13-15歳の少女が隠れ家という「非日常」の中で感じた日常的な感情(小さな喜び・家族への不満・恋愛感情・性への興味・将来の夢など)を鋭い感性で書いたところが共感を呼ぶ「思春期文学作品」。 

NHK Eテレ「100分de名著」で紹介されていたので、TV番組の解説本も併せて読んだ。

 

感想1 : アンネの成長

 

2年間の日記だが、彼女の心の成長が三段階あって三部構成のように感じたので、それぞれについての感想を書く。 

 

 

1.前半 : 口ばかり達者な、不平不満ばかり言っている少女

母親や同居人に対する、彼らの欠点や、アンネが子ども扱いされていることへの不平不満・悪口・愚痴・皮肉が内容のほとんど。

でもその悪口文章の中に見られる、観察力・表現力・ユーモアが素晴らしく、ここまでの感性・文章表現力を持っていたことが驚き。戦後、生き残った父親が日記を初めて読んで「アンネはこんなこと考えてたのか」と、その早熟さに驚いたらしい。

でも、その才能ももしかしたら戦時下という特殊な環境だからこそ研ぎ澄まされたのかもしれないと思うと、複雑な気持ちにもなる。

 

 

2.中盤 : ペーターとの恋愛を通して成長

隠れ家に一緒に住む男の子ペーターとの恋愛を通し成長。と同時に、いろんな物事を客観視できるようになり、母親も自分と同じ一人の人間であり、欠点もあるのだということを認めるようになる。

前半、同居しているにもかかわらず日記の中で影の薄いペーターが、ある日を境にアンネの頭の中の大半を占めるようになる過程が、読んでいて気恥ずかしくなる。でも彼女にとっては、絶望の中での数少ない希望の一つだったであろうことを思うと、「もっとペーター積極的にいけばいいのに」と応援したくなる。

 

 

3.後半 : 将来の夢を見つけた一人の独立した女性

彼女はジャーナリストになるという夢を持つようになっていた。精神的にも成長し、家族に頼らず一人でも生きていけるという自信も持つようになる。宗教や国際情勢に関する記述も出てきて、個人的な意見やユダヤ人としての立場を超えた、オランダ人・英国人の事情まで理解した上での広い視野での意見を持っていることが分かる。

一方で、彼女が一歩高い精神性まで到達した結果、ペーターのことは子供っぽく見えるようになり、彼との関係をセーブし始める。僕は男なので、おあずけくらった感じのペーターの心境を思うといたたまれない。

 

 

感想2 : 文章を書くことの意味

 

1944年春オランダ亡命政府が、戦争が終わったらドイツ占領下でのいろんな人達の苦しみを記録した手記を公開したいとラジオで発表したことを受け、アンネは日記を第三者向けに文章を最初から書きなおす(補足説明したり、悪口が厳しいところを書き直したり)。もともとは個人的な日記だが、誰かに読んでもらうことを意識して推敲を重ねて書いた文章なのだ。だからこそ、感情移入し、多くの人の心を打つのだろう。

自分の力では世の中や周りの環境をどうすることも出来ないとき、起こった出来事・感じたことを文章にして記録するということで、誰にも迷惑かけずに、自分の考えを整理し、負の感情を昇華することができることって確かにある。それって、無力なようだけど、とても意味のあることなのだと思いたい。

 

 

感想3 : 世界に与えた影響

 

日記は1944年8月で突然終わる。捕まって収容所に入れられた彼女は、解放まであと数か月という頃15歳で死に、生き残った父親が日記を出版。 そういうドラマチックな背景があったからこそ、この本が注目され、現在の世界中の人達からのユダヤ人への同情を決定づけ、イスラエル-パレスチナ紛争をややこしくしたという面はあるのかもしれない。

でも、もしそういうことが無かったとしても、少女のリアルな心の成長を描いたもの(大人になってからの回想ではなくリアルタイムな10代で書かれたという意味で)として優れた文学作品なのだと思う。