小説「砂漠」(伊坂幸太郎著)感想

砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

伊坂幸太郎は、現代小説家で僕が一番好きな作家。

どの小説も、ストーリーの伏線・整合性が完璧にとれており、ラストは必ずどんでん返し・伏線回収してくれるところと、正義感・家族愛・人生の希望などのストレートな感動ストーリーが好み。

 

この小説は、伊坂幸太郎得意のミステリー小説というよりは青春小説。登場人物メインは、仙台の大学に通う5人の大学生男女。

描かれるのは、彼らの麻雀・ボウリング・合コン・アルバイト・大学祭などの日常的なモラトリアム学生生活と、彼らが巻き込まれる通り魔・空き巣事件や超能力騒動などの非日常。

 

一応、伊坂幸太郎の小説らしく伏線回収・叙述トリックなどのミステリー要素もあり、それらはとても良く出来たストーリーだが、この小説の一番の魅力はキャラクター。

 

特に西嶋という男が魅力的。たぶん読んだ人はみんなそう感じると思う。

彼の外見は、暑苦しい小太り眼鏡(カンニング竹山を若くした感じか)。

イラクアフガニスタンを攻撃するアメリカを非難し、世界平和のためになぜか麻雀で平和(ピンフ)を狙い続け、保健所で処分されそうな犬を見たら後先考えずに引き取りに行っちゃう。

昭和の学生運動っぽい高邁な理想と無謀なくらいの行動力、空気読まずに言いにくいこともズケズケと言うところ(なぜか丁寧な言葉使いで)を愛さずにはいられない。

たぶん、実際にいたら相手するのがとても面倒くさいことでしょうが。

 

西嶋という男の言動とこの小説の印象的な言葉

人間は「近視眼型」(目の前のことしか見えずに突っ走る)と「鳥瞰型」(何事も客観的に見て冷静)に分類される。

を読むと改めて以下のようなことを思わされる。

 

大人・社会人は仕事において客観的に見ることができる「鳥瞰型」人間の方が良しとされることが多いけど、政治・社会問題に対し傍観者・批評家・ツッコミ役であることは本当はカッコ悪いことで、「近視眼型」人間(お笑いで言うボケ役)がもっといてもいいんじゃないか、と思わせてくれる。

 

以下、ほかに印象に残った文

・人間とは、自分の関係のない不幸な出来事に、くよくよすることだ!

・鳥瞰型の人間っていうのは、自分だけは特別で、上からみんなを観察しているって信じているだけ

・なんてことは、まるでない。(小説内で何度も出てくるノリツッコミ的な言葉)