小説「ホテルローヤル」感想

ホテルローヤル

ホテルローヤル

北海道釧路の町から離れた所にある、さびれたラブホテル「ホテルローヤル」を舞台にした短編7本(2013年の直木賞)。

7本それぞれ別の主人公だし時間軸も違うが、ホテルの建物や登場人物で繋がっている、というのが各話の共通点。

 

どの主人公も、幸せとは言えない境遇を受け入れて、田舎で生き続けている人達なのだけど、打算的だったり、刹那的だったり、周りに流されすぎてたり、知的レベルが低かったり、性的趣向が特殊だったりして、あんまり共感はできない。

でも彼らの、不幸な中にも喜びを見つけようとする姿、間違った選択だと分かっても選ばざるを得なかった心境(抗えない人間の業みたいなもの)や、あえて描かれていない不幸な結末などを想像すると、やるせない気持ちになってモヤモヤする。

(特に、第2話「本日開店」のモヤモヤ感ときたら...)

 

日常、暮らしていたのでは感じることのできない感情を抱かせてくれるのが優れた小説だと思うので、そういう意味で「さすが直木賞」な作品。

各短編とても短くて、「これで終わり?」っていう感じで物足りなさもあるけど、その潔さもまた良し。

 

あと、短編7本の掲載順が、ほぼ、現在(廃墟となったホテル)から過去(ホテル開業時)へ数十年間遡る順序のため、結末を知りながら登場人物の物語を読むという趣向も面白かった。

ただ、よく読んだら、必ずしも掲載順は時間軸の真逆という訳ではないような気もする。

(ホテル営業中の第4話「バブルバス」より、ホテル閉店となるきっかけの第5話「せんせぇ」の方が時間は後と考えるのが自然なように思うから)

 

この順序になった理由は、「バブルバス」が他の話から独立していて比較的ほのぼのした話であるのに対し、「せんせぇ」は全体のネタバレ的な話なので、後者を後に持って来たかったということだろうか。

他に読んだ方は、どう感じたでしょうか。(こんなことを気にする人あまりいないかもしれませんが。)