新書「おとなの教養」感想

池上彰さんが考える「大人として知っておくべき教養分野」について概要を紹介した本。

アメリカでは、大学で学ぶ「教養」は「リベラルアーツ」とも呼ばれ、専門的な職業に就く人ほど重要視されるのだけど、日本では大学1-2年の間の一般教育は無駄と思われがちだった。
でもそのせいで、原発の仕組みや危険さが多くの文系一般人に伝わらなかったり、科学者の卵がオウム真理教などのエセ宗教にだまされたりすることが指摘されるようにになり、「教養」の大事さが見直される時代になってきた。

池上さんが本であげている7つの教養とは、「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」。

「歴史」は僕の大好きな分野。以下のようなことを再確認した。
・「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というビスマルクの言葉のように、歴史をどう捉えて自分の生き方にどう活かすかを考えることが大事。
・書物に残っている歴史は勝者が都合の良いように書かれたもの。語られていない敗者の歴史を想像することも重要。
・歴史は進歩し続けるとは限らない。国や時代それぞれの持つ歴史観によって何が進歩かは異なるから。

その他のテーマとしては、「宗教」「宇宙」「経済学」「日本と日本人」はこの手の教養本としてはオーソドックスなジャンルだが、あとの2つは少し意外。
これらを選んだ池上さんの意図を考えてみたい。

「人類の旅路」は、アフリカで猿から人間へ進化して、大陸を移動していった「人類史」のこと。
遺伝子や進化など「生物学」というと理系に限定されるし、人類の大陸移動や社会を作ってきた「地理・歴史・文化」の学問というと文系に限定されそう。
池上さんは理系と文系の両方が合わさることで、新しいものの見方ができるのだということを伝えたくて、「人類の旅路」というテーマを作ったのだろう。

「人間と病気」は、インフルエンザ・花粉症・ウィルスなどの仕組みと、人類の歴史でどのような病気が流行してきたか、についての知識。
これも「医学」という理系学問と、「歴史」という文系学問を合わせて考えて欲しかったのだと思う。
人間の生活の変化により病気も変化し続けてきてきたのだということを、改めて知ることが出来た。

この本で紹介されたような「教養」は、仕事や実生活にすぐに役立つわけではない。
それよりも、IT・経営・マーケティング・プレゼンテーション技術などの知識の方が仕事にすぐに役に立つことは確か。
でも、「すぐに役に立つことは、すぐ役に立たなくなる。すぐには役に立たないことが、実は長い目で見ると、役に立つ」らしい。
その言葉を信じて「教養」ある人間になるべく、今後もいろんな本を読んでいこうと思う。