紀行エッセイ「ハワイイ紀行」

ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)

ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)

 ハワイの歴史・地理・文化に関する本2冊目。

 

 理系出身で海外にも詳しい池澤夏樹さんという作家の方の紀行本。

 各章ごとにハワイ諸島の「植物」「農業」「火山」「言語」「フラ(ダンス)」「サーフィン」「航海術」「天文台」などのテーマに絞って取材した、自然科学・文化人類学のような学術的な内容の多い硬派な本だった。
 1冊目に軽めのハワイの歴史の本「ハワイタイムマシーン」を読んでいないと内容に付いて行けなかったかも。

 

 読んで感じたのは、自然や歴史の中で人間はちっぽけな存在なのだということ。

 ハワイに一回行ったくらいでは、この本で読んだこと全てを見てくることは無理なのだけど、少しくらいは池澤さんの感じたことを理解できるようになりたいと思った。

 

 以下、印象に残ったこと

 

ホクレア号の航海

 西暦300~750年ごろ、無人島だったハワイ諸島に南東方向の島(マルサケス諸島)から約3000kmをカヌーで航海してポリネシア人が渡った。その事は物理的証拠もあって確かなのだけど、18世紀にハワイが西洋人に発見された時には、ハワイ諸島・マルサケス諸島のお互いが渡った人がいたことを知らないし、航海術も未熟な状態。カヌーのような小さな舟で、数か月間の航海が出来るとはとても思えなかったとのこと(1000年間経ち、それぞれの島で豊かに暮らしている内に忘れてしまったらしい)。
 そこで、1970年ごろ、ハワイの郷土愛の強い人達が中心となって、他の島の航海名人に弟子入りしたりして、大昔の造船技術・航海術だけを用いて同じ約3000km(ハワイ-タヒチ間)を渡り、ご先祖様の偉大さを証明してやった、という「ホクレア号」の話が、壮大で感動的だった。
 大昔、最初にハワイ諸島へ渡った人達は、そっち方向に島があるかどうか分からないまま全く陸地の無い海を、星だけを頼りに数か月間航海したのだということを思うと、無謀すぎて理解不能なのだけど、そういうフロンティア精神のある人がいたからこそ、今の人類の発展があるのだ、たぶん。僕はそういう人間にはなれないので、とても尊敬する。

 

白人に侵略された歴史 

 ハワイは18世紀に西洋から一方的に「発見」され、平和な島に突然白人がやってきて、彼らの宗教や文化や倫理観を押し付けられてきた。著者はそれを、ペリーが黒船で日本に来て開港を迫ったことと似ていると指摘する。
 違うのは、ある程度の大きさを持った日本が速やかに成長して欧米を真似て植民地を支配する側にまわったのに対し、ハワイは社会の規模がずっと小さかったために完全に制圧され、併合され、文化的にも抹殺に近い事態にまで追い込まれたという点であるとのこと。
 強制的に自分たちの文化を捨てさせられるという経験は想像つかないのだけど、日本に置き換えたら、日本語を禁止され、神社・寺を破壊され、皇族の方々が退位させられるということだと思う。考えるだけでも恐ろしい。そんな風にならないで済んだということだけでも、僕らは江戸~昭和の先輩方に感謝しなければと思う。

 

ハワイ固有の植物

 西洋人がハワイにヤギや牛を家畜として持ち込んだことにより、ハワイ固有の植物は野生化した家畜に食べられてほとんど絶滅してしまったらしい。

 つまり、西洋人は、ハワイの人間を侵略したのと同時に、意図せずに自然も侵略していたのだとのこと。たぶん、西洋人が悪いというわけじゃなくて、人間が世界を移動することで自然の形は崩れざるを得ないということなんだと思う。