教養本「仕事に効く 教養としての「世界史」」感想

 ライフネット生命の共同CEO出口治明氏によるビジネス教養本。
 今66歳の著者が、これまでの大手企業や海外生活の経験を通して感じた教養の重要さ、特に世界史に関する広い知識を学ぶことの大事さを、若い人向けに伝えるための入門本。

 僕は、司馬遼太郎大河ドラマの影響で中学生の頃から歴史好きなのだけど、単なるマニアックな趣味の一つであり、仕事に役立つと感じたことはあまり無い。でも、歴史に興味を持ち続けてきたことで、少しくらいは多面的で客観的なものの見方ができるようにはなった気はする。それが仕事の役に立っているかというと、よく分からないのだけれど。

 とは言え、僕が得意なのは日本史だけで、中国・ヨーロッパ等の世界史は馴染みがあまりなく、高校教科書の丸暗記レベル。なので、世界史の面白さも分かるようになりたいと思い、本書を読んだ。

学んで得た知識

日本史と世界史の関係

日本史を世界史から切り離して考えるべきでない。人間の歴史は、一つの世界システムであり5000年史(文字が発明されてから現在まで)ひとつしかない。 

 鉄砲伝来やペリー来航に関する日本国内資料と外国資料との記述の違いを通し、相手側(外国)の思惑がどうだったのかが分からないと真実は分からない、という著者の主張。自分にとって身近なこと(日本史)だけ見ていたのでは、井の中の蛙状態になってしまうのだということが良く分かった。

気候と人類の文化の関係

BC500年頃に地球が暖かくなって鉄器が広く普及し、高度成長期が世界規模で訪れた。衣食が足りるようになり余裕が生まれ、ソクラテス孔子・ブッダなどの偉人が登場。

 自然科学と歴史学という違う分野の学問が協力し、新たな発見や説が登場するようになってきたという例。理系と文系を分離しない方が、より新しい発想が産まれるのかもしれない。

宗教を理解すること

人間の歴史は宗教と深くかかわりあっており、外国でトラブルに巻き込まれないためには、宗教を理解することが必要。

 海外で起こる出来事や、そこに住む人たちの人間性・文化を理解するのに、宗教について勉強することは避けて通れない。世界には、自分たちの神様を信じていて、それ以外の考え方を選択出来ない人達が存在するから(貧困・戦争・教育未整備・過去の歴史的経緯などのため)。お互いに、どうしても考え方が異なる人達が存在するのだ、ということを理解し、彼らの考え方も尊重しないといけないのだと思う。

中国の強さ

中国は代々、遊牧民族と争い侵略され続けてきた歴史を持つ。そして、中国の本来的な強さは、侵略者を全部飲み込んで同化してしまうところ。

 中国は漢民族中心の侵略国家かと思っていたけど、歴史を追って見ると、中国三千年の内の700年以上は他民族に支配されていた時代(隋・唐・元・清など)。にも関わらず、支配する側の民族は漢民族の政治体制などを真似して、いつのまにか彼らと同化していくところに、中国の強さがあるという主張は興味深かった。

気候変動と民族の移動

ユーラシア大陸の歴史では、気候の変化によって中央アジアの一つの遊牧民が動き、その玉突き現象によってさまざまな蛮族がヨーロッパに移って来た。その外敵からいかにして身を守るかが、ヨーロッパ最大の課題だった。

 これも、気候変動という自然現象により、民族の移動・戦争という歴史的大事件が引き起こされたという説で興味深かった。にも関わらず、学校の世界史で大きく取り上げないのは、中央アジアで生まれて滅んで行った国の種類の数が多すぎて、これを学校の授業でやるのは難しいからなのかもしれない。大きな流れだけでも分かっておけばよいと思うのだけど。

ユーラシア大陸とアメリカ大陸の違い

生態系は横(東西)には広がりやすく、縦(南北)には広がりにくい性質を持っている(南北移動は気候変化が大きく動物も植物も移動が大変だから)。そのため、ユーラシア大陸では人・文化が広がり刺激し合い文明が発達したが、アメリカ大陸ではそうならなかった。

 文明の発展には、異なる場所で生活している民族同士の交流が必要不可欠との説。そして、民族が移動すればその土地の生態系は崩れざるをえないのも自然界の原理。人間の生活によって生態系を壊すのは間違っているという主張が今は主流だけど、人間も自然の一部だと考えたら必ずしもそうではないのかもしれない。