新書「荒木飛呂彦の漫画術」

 「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦氏による「漫画の描き方」本。
 漫画家志望でなくても「ジョジョ」ファンならみんな、荒木先生の頭の中知りたいと思うはず。ということで出された本だと思うのだけど、期待通り荒木先生の漫画哲学やコダワリ具合が感じられてとても面白かった。
 
 内容は、「ジョジョ」特有の漫画要素(スタンド、ジョジョポーズ、独特のセリフ回し)についての話(独創的なアイデアの出し方みたいなもの)はあんまりなくて、以下の、荒木先生の考える漫画における普遍的な「基本四大構造」+「絵の描き方」についてが主に書かれている。
  1. キャラクター
  2. ストーリー
  3. 世界観
  4. テーマ

 確かに、ストーリーは破綻しているのにキャラクターだけ人気がある漫画、世界観は詳細に作り込まれているけどストーリーや主人公の内面はあまり描かれていない漫画も世の中にある。でも、後の世に残る名作漫画というのは、これら全てがバランス良く成り立っているとのこと。
 僕が名作だと思う少年漫画を3つあげるとしたら、「火の鳥」「寄生獣」「うしおととら」。どれも、4つの要素全てが秀逸だと思う。
 
 印象的だったのは、4つの要素の内、荒木先生が考える最も重要なものは「キャラクター」で、「ジョジョ」のスタンド使い一人一人について、「身上調査書」という詳細な設定書を作成しているということ。この設定書には、身体的特徴・性格・口癖など漫画での必須項目だけではなく、漫画の中では登場しないかもしれない情報(家族構成・音楽や映画の趣向・恐怖するもの・恋愛経験・学歴)も書かれており、正直ここまでしなくても良いのでは、と感じてしまう。でも、このコダワリが「ジョジョ」において、脇役なのに印象に残る個性的な敵スタンド使いがたくさんいたことにつながったのかとも思う。
 
 裏話的なところでは、「ジョジョ」第4部に登場した岸部露伴は、最初はそこまで重要人物にするつもりはなかったのらしいけど、描いてみたらどんどん変人さが出てきて面白くなって、活躍するようになったらしい。
 僕ら読者は、荒木先生の変人ぶりを誇張したキャラクターなんだろうな、と想像していたのだけど、この本を読むとご本人もやっぱり「コダワリの強い変わった人」という風には感じた。
 
 また、「ジョジョ」のテーマである「人間賛歌」は、最初から考えていたわけではなく、単行本の著者コメントにたまたま書いた言葉。書いた後にこの言葉の奥深さに気付き、漫画の内容が「人間が自らの力で道を切り開いていく物語」となり、それが発展して「次世代へ受け継いでいく物語」となったとのこと。
 
その他に印象に残ったこと
  • キャラクターには「短所」が何かということも重要で、その「短所」を克服しようと努力することが「動機」につながり、その「動機」が読者の共感を生むのだとのこと。
  • 少年漫画のストーリーは「常にプラス」(落ち込んだり戦いに負けたりしても、すぐに克服して成長する、というストーリー)であるべき。なので荒木先生は、一時的にでもヒーローがその役割をやめて逃げ出すというのがとても嫌いらしい(碇シンジ君のこと?)。
  • イデアの源泉となるのは、自分自身の感覚で面白いと感じたこと、だけではなくて、自分とは違う意見や疑問に思うこと・理解ができない人・怖い出来事などに出会ったら、なぜそう思うのかを考えることから。