小説「空飛ぶ広報室」感想

空飛ぶ広報室

空飛ぶ広報室

 昨年、綾野剛新垣結衣でTVドラマ化されていて面白かったので読んでみた。ドラマも感動したけど、小説もとても良かった。今年読んだ小説で今のところ一番好き。エンターテインメント小説としても面白かったし、「自衛隊の意義とは」みたいに考えさせられるメッセージ性もあったから。

概要

 舞台は、航空自衛隊広報室という自衛隊の中でマスコミ対応をする部門。主人公は、事故のためブルーインパルスに乗れなくなった元パイロットの広報官男性と、報道志望のTV局ディレクター女性。
 なりたい職種になれなかった者同士が、それぞれの与えられた今の仕事にやりがいを見つけていく職業小説。最初は反発し合っていた男女がだんだん好意を持ち・尊敬しあい・成長していくという、TVドラマっぽい恋愛要素も有り。

職業小説・恋愛小説として

 自衛隊とTV局という特殊な職業が題材ではあるけど、組織や個人の仕事における課題とかやりがいとかって、職業に関わらず共感できるところって多いのだと感じた。

  • 一度は叶えていた夢(ブルーインパルス・報道記者という仕事)から外されて腐っていた若者が、新しい職種でやりがいを見つけていくとか
  • 同じ組織内に、自分より年上で仕事ができるんだけど職位は下の人がいて、コンプレックスを感じるとか
  • 男性組織の中で働く女性の悩み(無理して男性っぽく振るまう)や、そんな女性を昔から好きだけど伝えられず辛く当たってしまう男とか
  • 自信も手ごたえもあった企画が、納得いかない理由(上層部の体面とか世間体とか)でポシャッたりとか

どれも、仕事を何年かやってたら「わかるわかる」みたいな感覚で、共感し応援しながら読んだ。

 あと、男女の恋愛パートは、大人女性向け漫画っぽかった。僕もこういう切なくてキュンキュンする感じ、嫌いでは無い。この本の著者の有川浩(「図書館戦争」「フリーター家を買う」なども書いた女性作家)の本は初めて読んだけど、女性に受けるわけが少し分かった。

自衛隊について

 おそらく、この小説で著者が一番言いたかったのは、「自衛隊の人達も私たち一般市民と同じように、仕事で失敗したり・恋愛で悩んだりする、血の通った人間なんですよ」っていうことだと思う。一方で、自衛隊の人達はみんな、日本人が災害で困っている時は彼ら自身とその家族のことよりも市民を助けることを優先する覚悟がある、ということも描かれている(実際、東日本大震災の時はそのように行動してくれた)。
 にも関わらず、小学校では警察・消防の仕事は習っても自衛隊のことはちゃんと教えないし、マスコミも腫れもの扱いする。だから世間的に仕事をなかなか理解してもらえないと悩むシーンが小説にも登場する。確かに現実はそうなんだろう。この本やドラマのようなメディアを通して、自衛隊の仕事が広く伝われば良いと思う(それが航空自衛隊広報室の役目)。

小説であまり触れらていないこと(戦争について)

 この小説では、自衛隊が戦争に参加するかも、というようなことは、ほとんど触れられていない。でも、自衛隊の人を身近に感じれば感じる程、今の憲法解釈とか集団的自衛権の議論で、彼らはどうなってしまうんだろうということが心配になってしまう。(小説読んだだけで彼らのことを分かったような気になるのは間違っているんだろうけど)

 日本が戦争に巻き込まれた時、彼らを死地に向かわせて良いのか、人殺ししたりされたりする中に送り込んで良いんだろうか。そういう覚悟がある人が自衛隊に入っているんだろうとは思うけど、日本国民は彼らにそんな危険な仕事を押し付けることが出来るんだろうか。

 でも一方で、周辺の国際情勢を考えたら軍事抑止力は必要なんだろうとも思う。それに、今の自衛隊には、それなりの武器と人的資源はあるにも関わらず困っている世界の人達を助けることが出来ないことをもどかしいと感じている隊員もいっぱいいるのかもしれない。

 いろいろなことを知れば知る程、日本が右左どっちに進むべきなのか分からなくなる。でも知らなきゃ何も語る資格はないのだ。