ノンフィクション「フェルマーの最終定理」感想

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

概要

 フェルマーの最終定理とは、

「n>=3のとき、xのn乗+yのn乗=zのn乗 を満たす自然数x,y,zは存在しない」 

という、一見単純だけど奥が深く、1600年代に問題が出されてから300年以上、誰も答えられなかった数学の証明問題。

 この本は、この問題を全世界のいろんな数学者たちが、失敗を繰り返しながら、一歩一歩成果を積み重ねていき、1990年代にワイルズという人が証明を完成させるまでのストーリーを追ったサイエンス・ドキュメンタリー。

感想

 数学の証明の方法を学ぶための本ではない。実際の証明は、普通の人には難しすぎて理解できない。この本が教えてくれるのは、(1)数学には「人間ドラマ」がある、(2)数学にも「芸術的な美」を感じることができる、ということである。

 

(1)数学には「人間ドラマ」がある

 この本は、「フェルマーの最終定理」という世界一高い山に数学者たちが300年間挑み続けた登山の記録のようなものだと思う。ただし、実際の登山との違いは、各時代の数学者はみんな麓から頂上目指して登り始めるのではなく、1世代前までの人達が到達した場所から登ることができるということである。
 つまり、最後に証明を完成させたのはワイルズだが、彼一人の業績というわけではなく、それまでに数々の数学者達が積み上げてきたノウハウを組み合わせ、ワイルズ自身のひらめきを加えた結果、最終的に彼が頂上へ到達できたということである。

 学校の勉強だけだと、数学は机の上で計算するだけの人間味の無いイメージであるが、「フェルマーの最終定理」の証明に到達するまでのストーリーを通し、歴史と人間のドラマを感じさせてくれるものだということを、この本は教えてくれた。

(2)数学にも「芸術的な美」を感じることができる

 小説「ダヴィンチコード」「博士の愛した数式」でもネタになっていた、黄金比完全数友愛数などは、数学の素人が聞いても良く出来ているなあと感心する。これらは、数学という世界は人間が作り出した世界のはずなのに、神様的な誰かがこっそり紛れ込ませた「隠れキャラ」みたいなものだと思う。無限にある数字の世界の中から、神様的な誰かが人類に対し「この数字同士の法則を見つけられるものなら見つけてみろ」と言って、いじわるクイズを出してるような感じ。

 「フェルマーの最終定理」のような数論というジャンルは、微分積分・確率・連立方程式などのように、直接人間の生活の役に立つものではない。数学者達は、数字を組み合わせて美しい関係を作り出すことに没頭するのみであり、世の中の役に立てようなどとは考えていない(たぶん)。でも、それが黄金比などのように一般の人達を感動させることもあるのである。
 絵画や音楽のように目や耳で感じる美しさではないが、これも「芸術的な美」に近いんじゃないだろうか、と思えてくるのである。