教養本「ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業〔上〕」感想
ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業〔上〕(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: マイケル・サンデル,NHK「ハーバード白熱教室」制作チーム,小林正弥,杉田晶子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/02/09
- メディア: 文庫
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概要
NHKで数年前やっていた、ハーバード大学の哲学の授業の講義録。
- 5人の命を救うために1人の命を犠牲にして良いか
- お金持ちから多く税金を取るのは公正か
- 軍隊の志願制と徴兵制はどちらが公正か
等の思考実験や実例を元に、各自の心の中にある「正義」の基準を明らかにしていこう、という趣旨の講義。
サンデル教授曰く、3つの正義の基準があるが、どれも利点と欠点があるとのこと。
- 最大多数の最大幸福を目指す「功利主義」(少数派の不利益を許容)
- 個人の権利・自由を最優先する「リバタリアニズム」(社会全体の格差を許容)
- コミュニティとしての美徳・共通善を最優先(共通善の定義がコミュニティごとに異なるし曖昧)
我々が物事の善し悪しを判断する際、3つの判断基準の内、どの基準で考えているのかを意識することで、各自が矛盾無く、より正しい判断が下せるようになるし、議論の相手がどのような背景で主張しているのかを知ることもできる。
感想
ベンサム、ミル、ノージック、ジョン・ロック、カントら、古今東西の哲学者が言っていることは、かなり難しいことだと思うのだが、サンデル教授はそれらを、以下の手法で分かりやすく紹介してくれている。複雑なことを分かりやすく伝える時の手法としても参考にしたい。
1.簡単なものから難しいものという順番で紹介。
2.1つの問題に対し、違う哲学者としての「正義」を、結論とそれに至った考え方まで説明し、相違点を明らかにする。
3.ハーバードの学生たち自身に議論させ、みんなで意見を作り出している気にさせる。(実際はサンデル教授の手のひらの上で踊らされているのだろうが)
読んだ時点では理解したつもりになれるのだが、カントについては理解できた自信がない。他の本も読んで、時間をかけて理解できれば、と思う。
功利主義VSリバタリアニズムの議論は、今の日本でも、税制、年金福祉、経済自由化、エネルギー政策、防衛、表現の自由など、あらゆる分野で起こっていることである。それぞれの意見にメリット・デメリットがあるけど、今回はここを重視して選択しましょうというような議論を、国民と政府とマスコミが、もっと賢くなってやっていく必要があるのだと思う。