ノンフィクション「夜と霧」感想

夜と霧 新版

夜と霧 新版

NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧

NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧

 

第2次世界大戦のヨーロッパ。オーストリアユダヤ人精神科医ヴィクトール・E・フランクルが、ナチスドイツの強制収容所の中で経験したことをつづったルポルタージュ

死と隣り合わせの状況が終わりなく続く絶望的な環境の中で人の精神状態はどうなってしまうのか、そんな中で生きる価値・生きる意味をどのように見つければ良いのか、がテーマ。

Eテレ「100分de名著」で紹介されていて興味を持ったので、原著とNHKテキスト両方を読んだ。

 

以下、印象に残ったこと

 

1.生きる価値

フランクル曰く、人間には下記3種類の「生きる価値」があり、それらを求めるからこそ努力したり困難に耐えたりできるようになるのだ、とのこと。

(1)「創造価値」… 仕事や創造活動で得られる達成感

(2)「体験価値」… 大自然に感動したり、他者と愛し合ったりする時の喜び

(3)「態度価値」… 与えらえた状況に対して、どのような態度をとるかという精神的態度の自由

 

・「態度価値」については、難しくてあまり理解できた自信が無いのだけれど、変えられない過酷な状況でも尊厳・良心・美徳を持ち続けることで自己を肯定し満足感を持つことに価値を見出すということなのかと感じた。東日本大震災のような大変な状況でも、人助けしてあげられるような人間はこれを持っているということ。そんな人間を目指そうということだと思う。

 

2.人生からの問いに答える

・この本で最も強いメッセージは以下の言葉。

「人間は、人生から問われている存在である。人間は、生きる意味を求めて人生に問いを発するのではなく、人生からの問いに答えなくてはならない。」

人間にはそれぞれ与えられた使命があり、各人の元に既に届けられている。だから、あえて生きる意味を探す必要はなくって、与えられた使命に従っていけば良い。ということだと認識した。

この考え方って言い方変えたら、困難な状況でもそれがお前のやるべき仕事なんだから現状に満足しろというブラック企業な運命論のように思えなくもない。

少なくとも、最近の自己啓発本の「自分のやりたいことをやれ」「新しい世界に飛び込め」的なこととは逆の考え方だ。

今の自分にとっては、どちらが必要で有意義な意見なのか、まだ良く分からないのだけれど、この言葉も心に刻んでこれから生きていこうと思う。

 

3.フランクルがこの本に込めた思い

・この本を読んで一番驚いたのは、ナチスドイツへの恨みつらみやユダヤ人特有の悲劇に関する記述がほとんどないこと。

究極の人権虐待を受けながらも憎しみの感情を押し殺し、ユダヤ人とナチスの間のあの時代特有の関係性、感情的なことをなるべく除外して、人間が絶望の中でどのような精神の動きをするかという普遍的なことだけが書かれている。

フランクルが目指したのは、世界の誰もがいつの時代に読んでも共感できるような本だったのだろう。

初稿は、1945年4月にナチスから解放された後、9日間で書き上げたとのことらしい。

解放直後にそのような精神状態だった著者フランクルの執念・使命感の強さを感じ、そういうところにも感動した。

彼にとっては、この本を執筆して世に出すことこそが生きる意味だったのだろう。