小説「八日目の蝉」感想

八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

赤ちゃんを誘拐した女性と、誘拐犯に育てられた女性。血のつながらない母と子の物語。

 

第1章…不倫相手の男性の家庭から、女の子の赤ちゃんを誘拐した女性の逃亡劇。

第2章…誘拐された女の子が成長し、過去の事件のことを回想し苦悩する話。

の2章構成。

 

第1章

 第1章は、主人公の女性が間違った選択(誘拐・逃亡・嘘をつく)をし続けていく「転落人生もの」。

ずっと逃げ続けられるわけないんだから早く自首すればいいのにとか、不倫相手のダメ男に振り回されてないで新しい人生見つければいいのに、等と思いつつも、主人公の心境も分かるので、逃亡を応援しながらハラハラドキドキしながら読み進める感じ。

最初は衝動的に誘拐してしまい赤ちゃんを育てることに戸惑う主人公だが、徐々に強い愛情を感じるようになる。

 

血の繋がりは無いし、半分は敵である正妻の血が流れているのに、って感じるのは僕が男だからなんだろうか。

映画「そして父になる」は子供の取り違え事件がテーマだったけど、血の繋がりや自分と似ているところを重視する父親と、育てた時間・積み重ねた愛情を重視する母親を対照的に描いていた。

女性・母親というのは、そういうものなのかもしれない。

 

第2章

 子供の頃誘拐された女性が大学生に成長。周りから被害者として扱われてひねくれて育つ。

実の親よりも誘拐犯の女性の方が優しく愛情があったということにジレンマを感じ、誘拐犯の女性に対しても実の家族に対しても恨みを持ち続けていた。

そんな時、第1章の子供の頃、逃亡中に宗教施設で一緒に過ごした女性と会って、当時のことを思い出したり調べたりして、自分の人生を見つめ直していく話。

 

この小説が、誘拐犯女性の転落人生・逃亡劇を描いたエンターテインメント作品だけで終わっていないのは、2章があるから。

自分が何年間も信じていたものが嘘だったと分かった時(母親だと信じていた人が誘拐犯)、人はどうなってしまうのかを描いており、読者自身にも置き換えて考えさせられる。

 

この小説全体を通して印象に残ったこと

登場人物の女性たちの多くは、性格に問題があったり不器用だったりして、主人公たちに憎しみ・怒り・恨みの感情を向けるシーンも多い。

でも、そんな女性たちも、幼児・赤ちゃん・胎児の前では本能的な無条件の優しさが湧いてきて、憎しみの感情とごちゃ混ぜになって訳のわからない言動をしてしまうというところに、人間の感情の複雑さを感じた。

 

タイトルの「八日目の蝉」の意味

小説にはっきり書かれていないのでいろいろ解釈できるのだけれど、「七日間で他の蝉はみんな死んでしまった後、八日目に一匹だけ生き残ってしまった蝉が見る世界」のことで、それを絶望ととらえるか、そんな中でもいいところを見つけようとして生きるか、蝉の心持ち次第だよ、というようなことなのかと思う。

ちょっと分かりづらいよ...もうちょっとピンとくる例え方はなかったんでしょうか。