小説「楽園のカンヴァス」感想

楽園のカンヴァス

楽園のカンヴァス

20世紀初頭の近代画家アンリ・ルソーの絵画の真贋や描かれた背景を、現代の美術館員が解き明かそうとするミステリー小説。

マンガ「ギャラリーフェイク」みたいな感じ。

アンリ・ルソーという画家の存在も知らなかったし、近代絵画について何の知識も興味も無いのだけど、本屋大賞3位になっていたので読んでみた。

 

ミステリー+絵画みたいな感じで、ミステリーに何らかの専門的教養ジャンルを組み合わせた作品って、ストーリーも楽しみつつ教養も手に入るし、お得だなと思った。(ミステリー単独としては、ストーリーがご都合主義的になってしまいがちではあるけど)

 

歴史も美術も、学校の教科としては年代・画家・作品を記号のように覚えるだけなので大人になったら忘れてしまうが、司馬遼太郎の小説を読んだら日本史が得意になるのと同様、美術史もこのような小説を読んで物語としてとらえたら頭に入ってくるのだろう。

当時の画家たちの貧しい生活、お互いに影響し合っていた関係性、新しい価値観を作り出そうとする意気込みなど、そこにいた画家ひとりひとりの物語として感じることができる。そんな小説だった。

 

あと、この本を読んで、美術に夢中になる人の気持ちが少しだけわかった気がする。

純粋に、絵だけから視覚的に受ける印象(筆遣い・色彩・構図などの技巧的なこと)だけで感動するのではなく、見えない要素(絵の中の登場人物の物語・それを描いた画家の背景)もひっくるめて鑑賞するのが、本当の美術の楽しみ方なのらしい。

 

そして、著者の原田マハさんの美術に対する愛情を感じたのが、

「アートを理解する、ということは、この世界を理解する、ということ。アートを愛する、ということは、この世界を愛する、ということ。」

「ほんとうにアートが好きならば、君が生きているこの世界をみつめ、感じて、愛することが大切」

という部分。

我々凡人には到底たどり着けない境地だけど、そういうものを理解したいと思って日々生きることが大事なのだろう。

 

ただ、、、

小説を読んで感動した上で、アンリ・ルソーの作品(小説の表紙の「夢」という作品など)を見直してみても、やっぱり良い作品だなぁとかいう感情は沸いてこないんですよね。僕は美術鑑賞に向いていないのでしょうね...