小説「舟を編む」感想

舟を編む

舟を編む

辞書の編纂という、マニアックな、でも世の中にとってとても大事な事業に、人生を懸けて取り組む人たちの物語。
と言っても全然堅苦しい話ではなく、文章は軽く読みやすい。また、登場人物が漫画っぽいところも魅力の一つではないかと感じた。

自分が感じたこの小説のテーマは下記2つ。

 

1.辞書編集者の「言葉」に対する情熱の強さ

 編集者が、辞書を矛盾・無駄の無い作品にするために、どれ程気の遠くなる作業をしているか、普段からどれだけ言葉に注意を払っているか、を読んで感心した(以下(1)-(3)は、その例)。そこまで自分の仕事・趣味に夢中になれることは、とても幸せなことだと思う。

 (1)日常生活において常に言葉収集のアンテナを張り巡らせており、会話の中で気になった言葉があると、他の用例や類似語との相違点などを深く考え始めてしまい、会話の相手を置いてけぼりにしてしまう。(「のぼる」と「あがる」の違いのエピソード)
 (2)辞書編集中に、一単語の記載漏れが発見された際には、それまでチェックしてきた数万語をすべて再チェック。(「血潮」のエピソード)
 (3)辞書で単語を引いた人がその意味を読んだ時、知識を得ることだけでなく、勇気づけられることまで考えて意味・用例の文章を推敲する。(「西行」のエピソード)

 

2.仕事における、各人それぞれの役割


 登場人物に、コミュニケーション能力は低いが辞書に対する真摯さは誰にも負けない男(まじめ)と、辞書に対する情熱は少ないけど関係者への交渉が得意でムードメーカーになったりする男(西岡)がいる。西岡は、まじめに対してコンプレックスを感じ、自分の存在意義に悩んだりするんだけど、西岡のような男もチームで仕事をしていく上では必要。 人にはそれぞれ得意不得意があるけど、個人の不得意分野をスキルアップさせることに専念して元々の得意分野を鈍らせてしまうよりも、その分野に得意な他メンバーが助けてあげる方が良い結果になることもある、のかもしれない。