歴史小説「天地明察」感想

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)

 

あらすじ

 江戸幕府が安定期に入った頃、第4代将軍(家綱)の時代。主人公は、職業は江戸城囲碁を打つ仕事なんだけど、それ以上に数学と天文に熱中する青年、渋川春海という実在の人物。彼が幕府から命じられ、当時2日間ずれていた日本の暦を直し、より正確な新しい暦法を開発し移行するという、約二十年に及ぶプロジェクトに取り組んだ話。

感想

 歴史小説としては軽めで現代的な内容と文体だが、その分とても読みやすい。また、だいだい史実通りなのに主人公の人生が波乱万丈なので、こんな面白いテーマが日本史の中に残っていたのかと思い、歴史好きとして感慨深かった。

この小説の面白さの要素には、下記のようなことがあると思う。

1.失敗を繰り返しつつ一大事業を達成する「プロジェクトX的サクセスストーリー」であること
  • 主人公は、幕府の一大プロジェクトを若くして任されるんだけど、朝廷から暦を変える許可がなかなか下りなかったり、日食の予報勝負で負けたり、挫折を何度も経験する。でも、周りの人たちの支えで立ち直り、長期間コツコツ頑張って、事業を達成する。それを読みながら一喜一憂できるのが楽しいのだと思う。
2.江戸時代の数学・天文学・暦・政治など、うんちくを得ることで知的好奇心が満たされること
  • 江戸時代、数学は武士から庶民まで親しまれており、図形や数式の問題を神社の絵馬として奉納する「算額」という文化があった。中には、飾られた絵馬に解答欄が設けられていて、問題を解けた人が回答を書き、出題者がそれを見て採点するという、数学マニアのコミュニティのようなものがあった。そして、出題者が回答を見て、正解だった時に書くのが「明察」という文字。

 →算額については、NHKのタイムスクープハンターでやってたので知っていた。江戸時代の日本人の知識レベル・向学心は、世界的に見ても相当高かったそうだ。

  • カレンダーが、今使われている太陽暦になる前は、太陰太陽暦という暦法で、月の満ち欠けと公転の周期を基にして、通常12か月だけどそれだとズレが生じるため、補正するために時々閏月という13か月目が入る、複雑な暦法だった。そのため、庶民は正月に神社などが発行するカレンダーを購入する必要があり、そのお金が神社の収入源の一つだった。

 →カレンダーという身近なものにも、先人の知恵がつまっているということを改めて知って、感慨深かった。明治時代、外国に合わせて太陽暦にした時にも、ドラマがあったはずである。いつかそんな本も読んでみたい。

3.マンガ的ラブコメ要素
  • 主人公とヒロインの関係が、マンガっぽくて微笑ましい。ツンデレで上から目線のヒロインと、ヒロインに認められるために切磋琢磨する主人公、という部分は、「めぞん一刻」の五代君と響子さんを連想した。著者の冲方丁という人は、元々ライトノベル作家だけあって、我々マンガ世代のツボを心得ていると思った。