ビジネス書「稲盛和夫最後の闘い-JAL再生にかけた経営者人生」感想

稲盛和夫 最後の闘い―JAL再生にかけた経営者人生

稲盛和夫 最後の闘い―JAL再生にかけた経営者人生

稲盛和夫氏は、京セラ創業第二電電(DDI)設立、「アメーバ経営」という経営管理手法の発明などを行った「経営の生き神様」。80歳近くになった彼が経営者人生の最後の仕事として選んだのは、2010年に経営破綻したJALの再生。この本は、稲盛氏やその他JAL役員・再生機構のメンバーが、JAL再生の内部でどのようなことを考え、企業をリストラ・健全化していったのか、を日本経済新聞の記者が記録したルポルタージュ

 

通常、企業のリストラと言うとマイナスイメージで捉えられ、それを実行した人は悪者にされがちなのだけど、JALに関しては賞賛の声が多く大成功と言われたりするのは何故なのか、知りたかったので読んでみた。

 

JALは昔から、以下のような問題を抱えた会社だったらしい。

  • エリート意識が高く、労働組合の力が異常に強いため、高賃金(パイロットの年収3000万円)。
  • 退職後のOBへの年金も高額で、その支払いのための支出も高額。
  • 部門が縦割り・官僚的で社会の変化やトラブル時に迅速に対応できない。
  • 公的交通機関だから不採算路線があっても廃止できない、安全対策のための費用は削減できない等、予算の聖域が多く、高コスト体質
  • 企業として赤字でも、社員は誰も自部門に原因があるとは思っておらず、当事者意識が低い。

 

この本によると、そんなJALを3年間で黒字化できた要因が以下のように書かれている。

  • 国からの援助(法人税控除や国民の税金投入)があったことが大前提だが、それだけでは企業の体質までは変わらなかったはず。
  • 社員一人一人の意識改革まで行うことが出来たのは、稲盛氏らの取り組んだ、精神面・制度面両方の施策があったから。具体的には以下の2つ。

 

1.「フィロソフィ(経営哲学)」の植え付け

  • 先ず役員に対して、「利他の心」「嘘をつくな」「欲張るな」といった小学校で習うような道徳教育を行い、徐々に社員全員に浸透させていった。

→これにより、エリート意識を捨てさせ、自分達が日本国の「足でまとい」になっていることに気付かせ、会社として身を切る覚悟を社員全員に醸成していった。

 

2.「アメーバ経営」の全社適用

  • 京セラで発明して他の製造業にも指導してきた、小さな単位で行う部門採算性の考え方「アメーバ経営」を、航空業向けにカスタマイズして適用。部門単位や飛行機の1便単位で収支を把握できるようにした。

→各部門が自主的に、売上を上げコスト削減するための努力をし始め、社員が自部門の決算を見て一喜一憂するようになった。

 

感じたこと

  • 外部から乗り込んできてこれまでの仕事のやり方を変えようとする稲盛氏に最初は反発していた役員が、だんだん彼の考え方に感銘を受けて味方になっていく、というドラマみたいな話が今の時代でもあるんだということに驚いた。もちろん1万人以上解雇されているので、美談だけで語るのには違和感もあるのだけれど。
  • 稲盛氏がJAL再生を引き受けた理由は、

「腐ったJAL」を立て直せば、苦境に陥っている全ての日本企業が「JALにできるのなら俺たちにもできるはず」と奮い立ってくれる。そこから日本変えられる。

と思ったから。日本という国も今、少子高齢化・低成長の時代であり、JALのように痛みの伴う改革をしなければダメになってしまうことは自明。彼の志を政治家や官僚たちが継いでくれることを祈りたい。