小説「魔王」(伊坂幸太郎著)感想

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

あらすじ

伊坂幸太郎の「政治」と「超能力」をテーマにしたポリティカルSF小説
主人公は、他人に思い通りの言葉を言わせる「腹話術」が使える兄と、賭け事に勝ち続ける能力を持つ弟の、超能力兄弟。
 
小説では、一人の強いリーダーシップを持ったナショナリスト政治家が権力を握り、日本を一つにまとめあげて中国や米国に対してモノ申すようになって憲法9条も改正しようとして、、、という中で、間違った方向に進んでいると感じた主人公が超能力で立ち向かおうとする。
 
他の伊坂幸太郎小説のようなミステリー要素・感動要素は少ないが、ナショナリズムの「正しさ」と「怖さ」について、とても考えさせられる内容。
 

感想

中国・韓国との間の領土・歴史認識問題に弱腰にならず、米国の言いなりにもならずにすむよう、日本が独自の武力を持つという、ナショナリスト政治家が言っている主張は確かに正論。
ネトウヨと呼ばれる人達が喜ぶ「たかじんのそこまで言って委員会」や「ゴーマニズム宣言」の思想。
僕も正直、憲法9条や沖縄米軍基地が今のままでいいとは思わないので、共感する部分はある。
でも、外国の人達を憎むように仕向けたり、思想の違う人達を排除したりすることで国をまとめることには、違和感を感じる。
 
右か左、一方だけの主張を聴くのではなく、いろんな立場の人の意見・情報を収集し、国民一人一人が時間をかけて考えるべきことなのだろう。
とにかく、何事にも問題意識を持ち、メディアの言うことを鵜呑みにせず、面倒くさがらずに自分で調べ考え、少しでも意見の近い政治家を選挙で選ぶこと。
この小説で著者が言いたいのは、主人公の超能力兄弟の兄の口癖「考えろ考えろ」の精神を常に持てということなのだと思う。大変だけど。
 
あと驚いたのは、この小説が2004年に書かれたということ。
登場する政治家は橋下徹 大阪市長とダブるのだけど、彼が政治家になったのはもっと後。
当時はまだ今ほど日本はネトウヨ化してなかった気がするし。
伊坂幸太郎の、この小説みたいな難しいテーマを扱う「チャンレンジ精神」と、数年後の未来を見通したかのような「先見の明」に驚かされた。