Book of Year 2015

あけましておめでとうございます。

年が明けてしまったけど、2015年に読んだ本BEST10です。
なお、対象は発行が2015年の本というわけではなく、僕が2015年に読んだ小説・エッセイ・ノンフィクション・教養本・ビジネス書など計55冊

http://booklog.jp/users/yukkie1973/chart/2015/total/book

 

10位『荒木飛呂彦の漫画術 / 荒木飛呂彦

・「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦先生による「漫画の描き方」本。先生の考える漫画における基本構造は「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」の4つであり、一番重要なのは「キャラクター」というのが興味深かった。

 

09位『稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方 / 大前研一
・経営コンサル大前研一氏による自己啓発書。仕事を、本体組織が担当する「非定型業務」と、アウトソーシングする「定型業務」に分類して定義すべき、などの主張に納得。

 

08位『幕が上がる / 平田オリザ
・高校演劇部が舞台の青春小説。ストーリー大枠はベタな部活ものだけど、役者として演じること・演出の面白さや、「演劇」という一つのことに夢中になる姿がとても魅力的に感じられた作品。

 

07位『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち / 川上量生
ニコニコ動画川上量生氏の思考法・働き方についての本。発想が斜め上過ぎて常人では参考になりそうもない話が多いけど面白かった。一番印象に残ったのは、出勤・食事が不規則な社員(プログラマ)のために、体操服の女性が朝弁当を無料で手渡す「女子マネ弁当」の話。

 

06位『ハーモニー / 伊藤計劃
・科学技術と医療が発達した21世紀後半の世界を舞台にしたSF小説。テーマは「平和で秩序が保たれた管理社会と、自由だけど混沌とした世界、どちらが幸せか?」みたいなことで、深く考えさせられる。結末も衝撃的で、物語最後の世界の姿は想像するのが難しく、その解釈について読んだ人同士で語り合いたくなる作品。

 

05位『ハワイイ紀行 / 池澤夏樹
・旅行で行く前に予習として読んだ、ハワイ諸島の歴史・自然に関する紀行エッセイ。ハワイが地球上でどれだけ独特な場所なのかを知ることができるので、もしハワイに行く人がいたら、ぜひ読んでほしい。

 

04位『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か / 平田オリザ
・劇作家 平田オリザ氏による「コミュニケーションのあり方」に関する新書。演劇論・学校教育論・日本語論から始まり、哲学、日本と欧米の文化比較論まで、だんだん話のスケールは飛躍しつつも、斬新かつ論理的で情熱的な主張。特に、「コミュニケーション能力」を「周りの空気を読む能力」と「異文化を理解した上で自己主張する能力」に二分化して考える点は、目からウロコだった。

 

03位『世に棲む日日 / 司馬遼太郎
大河ドラマ「花燃ゆ」があったので、僕にとって人生何度目かの再読。吉田松陰高杉晋作の波乱万丈な一生の物語を通して、人にはそれぞれ時代の中で為すべき役割があって、寿命の長短は人それぞれあるけど、その中で精一杯生きないといけないんだ、と思わせてくれる。もちろん多くの部分フィクションなのだろうけど、幕末の志士達が活躍してくれたから今の時代があるのだということを忘れてはいけないと思う。

 

02位『虐殺器官 / 伊藤計劃
・近未来、米軍暗殺部隊が主人公のSF&ミリタリー小説。科学技術が発達した未来に起こるかもしれない残酷な出来事を通し、今の現代社会の問題点を考えさせてくれる思考実験的な内容のSF。「戦争・内戦・テロ・虐殺は、なぜ完全には無くならないのか?」という問題提起を与えてくれ、頭の中を最もグラグラさせてくれた作品。

 

01位『旅のラゴス / 筒井康隆
・主人公が失われた文明の知識を求めて旅するSFファンタジー小説。1位の理由は、物語中盤、主人公が古代人の書物を何年間も読み漁る描写が素晴らしく、彼の読書と知識獲得を僕も体験させられている気持ちになって、どっぷりと世界観に浸ることが出来たから。「歴史は全ての学問の基礎」「小説は自分の世界を忘れさせる麻薬」など、読書好きにとって示唆深い表現が出てくることも大きな魅力で、文句なし2015年のBEST1。

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新書「わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か」

劇作家 平田オリザさんの考える「コミュニケーション」についての新書。

 

平田オリザさんについては全然知らなかったのだけど、映画「幕が上がる」で、ももいろクローバーZの5人を演技指導した人ということで、興味を持って読んでみた(映画も小説もとても面白かった)。

 

本の内容は、

  • 現代の社会人に求められている「コミュニケーション能力」に関する矛盾点
  • 平田さんの取り組んでいる、学校の授業に演劇を取り入れることの意義

などから、教育改革論や、日本語論から始まり、「人間らしさとは」みたいな哲学的な話、今後の「日本人のあり方」論まで、だんだん話のスケールは飛躍しつつも、斬新かつ論理的で情熱的な主張だった。

 

この本の前半、まず最初に目からウロコだったのは、企業が社員に対し、

  • ある時は「周りの意図を察して機敏に行動する」「空気を読んで発言する」「和を乱さない」能力
  • また別の時は「異なる価値観を持った人に対しても、しっかりと自分の主張を伝えることができる能力」「異文化理解能力」

の両方を求めており、これらの相反する二つ能力を「コミュニケーション能力」と一括りにして呼んでいる。つまり、「企業が会社員に求める『コミュニケーション能力』はダブルバインドである」という主張。

 

どちらかだけ得意でもう一方が苦手な人は、「コミュニケーション能力」が高いと言えるのだろうか。そろそろ企業も、「コミュニケーション能力」という曖昧で人によって解釈が異なる単語は使うのをやめて、それぞれ別の名前を付けて呼んだ方がいいんじゃないだろうか。

 

その他、印象に残った内容

  • 「国語」という科目は、その歴史的使命を終えた。「国語」を、答えの無い科目「表現」と、答えのある科目「ことば」に分けるべき。
  • 医者の卵も、大人になるまで身近な人の死を一度も経験していない学生が珍しくない。また、いじめのロールプレイなどを通し、他者の感情により共感することができるようになる。だから、「演劇の授業」というフィンクションの力を借りて疑似体験することが効果的。
  • コミュニケーション能力、異文化理解能力が大事だと世間では言うが、それは別に、日本人が西洋人、白人のように喋れるようになれということではない。欧米のコミュニケーションが、とりたてて優れているわけでもない。だが多数派は向こうだ。多数派の理屈を学んでおいて損はない。
  • これまでの日本は、単一民族国家で同一価値観の人達の集団だったが、豊かになった現代では、多様化して人それぞれ異なる価値観を持つようになってきた。だから、周囲の人間と分かりあえるはず、という幻想は捨てるべき。逆に「わかりあえないこと」が当たり前で、その中から分かりあえる部分を探っていく、という考え方が大事。

 

SF小説「虐殺器官」伊藤計劃

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

近未来(たぶん2020年代)、アメリカ軍 特殊暗殺部隊の主人公青年が、途上国で意図的に虐殺・内戦を引き起こす扇動者を暗殺する為に追う、SF&ミリタリー小説。
 
殺人の描写が過激なところと、SFや兵器に関する用語が最初とっつきにくいのが難点だけど、とても深いテーマで考えさせられる小説。
 
たぶん、SFには二種類あって、「非現実な世界観を堪能するエンターテインメント要素の強い小説」と、「未来に起こるかもしれない出来事を通し、現代社会の問題点を考えさせてくれる思考実験的な小説」があるのだと思うけど、この小説は圧倒的に後者。
科学技術・医学が発達しても、現代の価値観・社会ルールのままだと、人類は不幸になってしまうよ、という問題提起をしてくれている。
こういうのを「ディストピア小説」と言うのだろう。
 
僕が感じたこの小説のテーマは、「戦争・内戦・テロ・虐殺は、なぜ完全には無くならないのか?」という命題。
 
主人公は、虐殺扇動者と対峙していく中で、世界は全然平等では無くって、先進国の人達の幸福な生活は、途上国の人達の犠牲の上で成り立っているのだ、という「見て見ぬふり」をしてきたことに気付かされ、自身の仕事(暗殺部隊)の罪悪感にさいなまれて葛藤する。
読者である僕らも、良く考えたら現代社会でも先進国が途上国から搾取する構図は同じ状況なのではないか、という気になってきて、虐殺扇動者の言い分こそが「不都合な真実」なのではないかとも思えて来るようになる。
 
そんな風に、頭の中をグラグラさせられたい人にはおススメ。
フィクションだからと言ってバカにしていられない問題提起がある。
見ない方が、知らない方が、意識しない方が幸せなことなのかもしれないけれど。

鎌倉

10年ぶりに鎌倉観光(人生で三度目)。
今回は、ブラタモリタモリさんが訪れた場所を中心に巡る。

まず、鎌倉駅から江ノ電に乗って極楽寺駅へ。
極楽寺駅は、ドラマ「最後から二番目の恋」での中井喜一と小泉今日子の最寄駅。
また、漫画「海街diary」四姉妹の最寄駅でもある。
とても閑静で小さな駅なのだけど、ドラマや漫画ロケ地を聖地巡礼する人も多い模様。

でも、僕の目的は、ここから鎌倉の街へ入るための「極楽寺坂切通し」という道。
源頼朝が鎌倉に幕府を開いた理由の一つは、鎌倉が三方を山(もう一方は海)に囲まれた天然の要害だったため。
陸路で鎌倉に入るためには、「切通し」と呼ばれる細い道を通るしかなかった。
今でもその名残を残す道の一つが極楽寺坂切通し。
車道は近年になって掘られて通りやすくなっているけど、階段は当時の急な坂のまま。
坂マニアのタモリさんが満足そうに歩いていた道を僕も歩き、昔の人の不便な気持ちを味わう。

続いて、坂の上から見えた由比ヶ浜海岸まで歩く。
歴史好きにとって由比ヶ浜は、静御前が生んだ赤ちゃん(源義経の子)を源頼朝の家臣に埋め殺されたという逸話のある鬱スポット。
少し感傷にふけった後、海岸から若宮大路へ向かい、鶴岡八幡宮へ。

鶴岡八幡宮も、源頼朝北条政子ら由来の名所旧跡なのだけど、
残念だったのは、若宮大路の道路の真ん中にある歩道、壇蔓(だんかずら)が工事中で歩けなかったことと、鶴岡八幡宮の大イチョウが数年前の台風で倒れて幼木になっていたこと。

その後、鎌倉独特の「やぐら」という形式のお墓のある寿福寺へ。
鎌倉は人口に対し土地が狭く、墓を作るための場所が限られていたため、崖を切り崩してお墓にしていたらしい。
北条政子源実朝のお墓を拝む(お墓なので写真は撮っていない)。

4時間くらいで、計画通りに行きたかった所を巡れて、とても満足。
鎌倉には観るべき場所がたくさんあるので、また5年後くらいに来たい。
その頃にはたぶん、お寺巡りなどが趣味になっている気がするので、また違った楽しみを感じられるのではないかと思う。

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小説「旅のラゴス」

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

筒井康隆のSFファンタジー小説
大昔持っていた高度な文明を失い、その代わりに人類はみんな超能力を使える、という世界で、旅をし続けるラゴスという男の生涯。

30年くらい前に書かれた小説なのだけど、なぜか今ネット上で読書好きの間で話題らしく、読んでみたが納得。

基本的には、
筒井康隆らしい、超能力の笑えるエピソード
・主人公ラゴスが、困難に遭っても旅をし続ける英雄譚
・未開の村が、文明を手にしていく発展史
などが魅力なのだと思うのだけど、僕が一番共感したのは物語中盤、ラゴスが古代人の書物を何年間も読み漁るところ。
本をたくさん読みたい、広い知識・教養を得たいと考えている、今の僕のような人間にとっては、とても共感できる内容だった。

主人公ラゴスは、膨大な書物の中から古代人の文明を理解するために、以下のような順序で何年間も読書し続ける。
これらを読んでいく中で、小説を読んでいる僕ら読者も、一緒にラゴスの読書と知識獲得を体験させられている気持ちになってしまうところが、この小説の一番の魅力なのだと思う。

1.写真入りの歴史・自然・文化・芸術(それ以降の学問のための前提知識)
2.農業・鉱業・工業などの実用書
3.古代人の日記
4.歴史・伝記
5.政治経済
6.社会学史・社会運動史、労働問題
7.小説
8.医学、科学
9.哲学

以下、心に残った文章と感じたこと。

「歴史」は、学問をしようという者にとってすべての学問の基礎であり、最初の学問。

⇒ 政治経済・社会学・医学・科学・哲学、あらゆる学問は、歴史の積み重ね。未来のことを知りたければ、過去(歴史)から学ぶ必要がある。

自分のいる世界を忘れさせてくれる「小説」は麻薬。

⇒ 面白さにのめり込んで他の学問がおろそかになると思い、それまで控えていた「小説」をとうとう我慢できなくなって読みふけるエピソードは、読書好きにはとても良く分かる。

(哲学書を学んで)人間を見る眼や世界観、さらには人生観は二転、三転した。目まぐるしいほどの視野の移動と拡大があり、思考力、特に認識力は翻弄された。

⇒ 「哲学」に出会った時の感情の動きを、凄くよく表していると思う。

 

ミステリ小説「マスカレード・ホテル」

東野圭吾のミステリー小説。
青年刑事が、連続殺人事件の潜入捜査のためホテルマンになりすまし、指導役のフロントクラーク女性(美人)と働きながら事件を解決する。

前半は、ミステリーというよりは、ホテルの仕事を題材にした職業小説。
何かしらのトラブルを抱えたホテルの客に対し、一流ホテルマンのお客様第一主義は、ここまで凄いんですよ、という話で、そのプロフェッショナルな姿勢には感心する。
一方、ミステリーの方は、東野圭吾にしては動機やトリックが強引かな...

あと、加賀恭一郎は登場しないけど、小説の最後に取材協力として記載された日本橋のロイヤルパークホテルといえば、「新参者」舞台の近く。
きっと、このホテルとタイアップして1~2年以内にドラマ化すると思われる。
主人公コンビは、綾野剛北川景子と予想しておく。

小説「魍魎の匣」感想

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

 伝奇(妖怪)小説+ミステリーという独特のジャンルの小説で、京極堂と呼ばれる探偵役(職業は古本屋兼神主)が活躍する「百鬼夜行シリーズ」二作目。

 十年くらい前、第一作目の「姑獲鳥(うぶめ)の夏」を読んだ時は、妖怪が出てくるような超常現象的な事件を、現実的なトリックとして解決する本格ミステリーかと思いきや、裏切られたという記憶があり、人気作品にもかかわらず二作目以降は読んでいなかったのだけど、今読んだら当時とは感じ方は違うかもしれないと思い、読んでみた。

 妖怪・超常現象を思わせる猟奇的な事件と、探偵役である京極堂たちのシニカルな会話がこの作品の魅力であり、そういう面は面白くもあったのだけれど、正直、文庫一冊で1000ページは長すぎた(重量としても重かった)。
もう続きは読まないかも...

 とは言え、いくつかの京極堂のセリフは興味深かったので、備忘録的に書いておく。
 
宗教者・霊能者・占い師・超能力者を目的の違いなどからロジカルに分類・用語定義した上で、「結局はどれもペテンなのだけれど、信じて救済される人がいる限り、それで良い。」「見破られないのであれば、どんな手を使おうが構わない」
 
「動機とは世間を納得させるためにあるだけのものに過ぎない。」「犯罪は、常に訪れて去って行く『通りもの』みたいなもの」